何を着ていくか2016年09月29日 09時30分30秒

昨28日、国立劇場で、開場五十周年記念式典が開かれました。一応役員の末席に連なっていますので、出かけることにしました。

そこで困ったのは、何を着ていくか、ということです。紋付きに袴、きらびやかな着物の方々がずらり、といったイメージが浮かびますので、着古したものばかりの私としては、着ていくものがありません。

そこで思いついたのが、4月7日の「メンズ館」という談話でお話しした、○○○○○の高級スーツ。高揚感に燃えた買い物になった次第は書きましたが、白状しますと、妻に一発でダメ出しされて、着るに着られなくなってしまったのです。要は、私の体型の問題です。

というわけで半年、それは眠ったままでした。先生、急にお痩せになりましたね、と言われるようになってから着ても意味がありませんので、とにかく一度チャンスを与えよう、と思い立ちました。

体型に合わないと言ったって、人が驚きの目を見張るとか、思わず後ずさりするほどひどくはないだろう、と考えました。幸い知人は少なそうなので、隅で静かに時間を過ごすことにすれば、乗り切れそうです。

皇太子殿下ご夫妻の臨席される、さすがの式典でした。長年ご厚情を賜った今藤政太郎先生が功労者として表彰され、祝賀芸能、とくに、「元禄花見踊り」の華やかさに圧倒されました。

予想通り知人の少ないパーティ会場でスパークリングワインを飲みながら、伝統芸能にももっと時間を使わないといけないなあ、と思うことしきり。前後、とくに違和感のあるまなざしには出会わなかったことを申し添えます。

今月のCD/フランス、すごい!2016年09月27日 23時18分20秒

旧い録音はよりどりみどり、新しい録音はほとんど紹介されず・・・というのが市場の現実とあきらめかかっていましたが、その思いを一気に吹き払う、すばらしいCDが出ました。力を入れてご紹介します。

それは「夜の王のコンセール」と題する2枚組(ハルモニアムンディ)。少年ルイ14世(昨年没後400年)が太陽に扮して踊った有名な「夜の王のバレ」(1653年)の音楽を蘇生させたものです。

フランス・バロックはリュリから、とつい思ってしまいますが、これはリュリ以前。作曲家の名前がない、と思って調べると、何人もの合作なのですね。それなら平凡か、というとさにあらずで、目がさめるほど生き生きしていて、宮廷音楽の優雅が満載なのです。フランス、すごいなあ。

踊りと歌の趣向がまた、じつに凝っています。「夜」に始まり4つの「刻」を経て、最後に太陽(=ルイ14世)が昇る。それぞれの刻では、神話的人物がさまざまな愛憎の情景を繰り広げます。

となると、どうしても歌詞訳と日本語解説が必要ですよね。それがしっかり付いていて、情報価値十分。演奏(ドセ指揮、アンサンブル・コレスポンダンス)も絶品ですから、値段(8400円+税)も十分元が取れます。よくこれだけの冒険をしてくれました。敬意を表します。

祝・豪栄道2016年09月25日 22時17分18秒

先のことは誰も予見できない、と思ったのは、豪栄道の優勝ですね。感動的でした。こういうことが起こるから、スポーツは面白い。野球も同じですね。ぶっちぎりだったソフトバンクが追い越され、日本ハムがマジック3なんて、ほとんど信じられないことです。

風が吹いて来る人やチームがある反面、暗転に見舞われる人やチームもある。人生の面白さであり、こわさでもあります。でも相撲取りも野球の選手も、みんな同じことを言いますね。目先の一番一番、あるいは一試合一試合を全力でやっていく、と。

これって、私がいつも若い人たちに言っていることと同じですよね。目先のことをとにかく全力で成功させ、先につなげなさい、というのと。スポーツは、いい教材だと思います。

今場所は、内館牧子さんご推奨の美男力士、隠岐の海が、前半に活躍しました。私も応援していたのですが、どうも大らかな人柄のようで、厳しさが足りないですね。その点、日馬富士はたいしたものです。琴奨菊もパッとしませんが、土俵で両手を回し、琴バウアーで決める動きの流れがとてもきれいで、見とれています。

みんな強い中、生存競争がたいへんですね。だから面白いわけですが。

《オテロ》に学ぶ2016年09月22日 10時38分39秒

「たのくら」でヴェルディの《オテロ》を、2回にわたり勉強しました。この偉大な作品に、まこと脱帽の思いです。70代の創作にして、この発展は信じられません。

会員にも好きな方、詳しい方がおられ、ヴェルディが当初タイトルを《ヤーゴ》と付けたがっていた、という話になりました。これは経緯を正確に調べてみるべき話で、職業柄そうしないで話題にするのもいかがかと思いますが、お目こぼしをいただきまして・・・。

オテロもヤーゴもすばらしい人物造形で、その対立も効果満点です。しかしどちらの人物がより独創的かと言われれば、ヤーゴでしょう。第2幕冒頭の〈ヤーゴの信条〉など、前代未聞の音楽と言っていい。

第1幕。ヤーゴはオテロの登場前からその場にいますし、名曲〈乾杯の歌〉の前後で、彼の目論見を実行する。しかし彼に本当にスポットが当たるのは、第2幕です。冒頭にキリスト教の〈クレド〉を裏返した〈信条〉があり、オテロをたぶらかす〈夢の歌〉がある。その最後に、両雄による〈復讐の二重唱〉があります。

豪快なオスティナート音型(←名旋律!)を先立てて始まるこの二重唱、私の好きな曲なのですが、気がついてみると、主旋律を歌うのはヤーゴで、オテロは上を付けているだけなんですね。力関係がこう明らかになると、歌劇《ヤーゴ》第2幕でもおかしくありません。

第3幕もそれでいけるでしょう。最後、ヤーゴは勝ち誇ってオテロを足蹴にしますから。ところが。第4幕でヤーゴは存在感を失い、逃げ去るだけになります。逆にオテロは空前の名場面で独壇場、という形になりますから、やはり《オテロ》第4幕と言わざるを得ません。このあたり、先行研究が存在することでしょう。

古今の演奏を比較すると、昔は大歌手の個人プレーが前面に出ていて、われわれがNHKのイタリア歌劇団に熱狂したのは、まさにそのような公演だった、と痛感します。それからというもの、レコードを選ぶにも、有名な歌手がたくさん出ている方を選んでいたものです。

しかしその後、大指揮者が仕切るオペラという形が世界で進行し、ドラマ優先のオペラが尊重されるようになりました。私は、今後のオペラはいっそうアンサンブルを尊重するようになると予測しています。クルレンツィスのような指揮者とともに、もうそれは始まっている。小さなコンサートホールでオペラをやる場合にはそうした方向が重要で、歌い手の方々にも、それに対応する柔軟性を求めたいと思います。

それは、ヴェルディ自身が求めたことでもあるのです。《オテロ》には精緻なアンサンブル楽曲が見え隠れしており、たとえば第3幕のヤーゴとカッシオの二重唱は、《ファルスタッフ》の世界を指し示しています。《ファルスタッフ》がいかに高度なアンサンブル・オペラに発展してオペラの歴史を塗り替えたかは、皆様ご承知の通りです。

お疲れ?2016年09月18日 07時57分26秒

職場を離れてから行くことのまれになった立川へ、久しぶりに。改札を少し出たところで、お世話になったかつての同僚と鉢合わせしました。

その方が開口一番おっしゃるには、「お疲れのようですね」と。こう言われることがよくありますので、疲れていないのに言われた時には、「人生に疲れまして」と返事します。「お年を召しましたね」と同義だと考えるからです。

この日もそう申し上げたのですが、その方は急に真顔になり、「お元気でお過ごしだと思っていたのに、どうされたのですか」とおっしゃるではありませんか。これには私も驚き、あれこれ引っ張ってから、「冗談です」と言って落着。どうやら、冗談で済んだものが冗談では済まなくなってきたようです(笑)。

そんな状況ですので少し時間に余裕をもちたいな、と思っていたところへ、ある大学から、後期に急遽一コマ持ってくれ、との要請が。そこで金曜日の午前中に出講することにしました。でもその分、何かを整理しないといけませんね。残り時間に照らして、むずかしいところです。

と書いて気づいたのは、何より部屋を整理するのが先、ということ。昔から散らかし人間なのですが、片付けるのが面倒になっているのが、人生の疲れの余波のようです。

広島にて2016年09月11日 21時40分36秒

10日(土)朝、広島に向け出発。道中が長いので仕事をしようとパソコンを持ち、荷物が重くなりました。谷保駅まで歩き、もう汗びっしょりです。ところがポケットを調べて、財布を忘れたことに気づいたのですね。

どう考えてもこのまま広島に行く方法はないので、家に「逆」戻り。パソコンを置いて荷を軽くし、出直しました。少し余裕を見ていたので、無事到着できました。

「芸術と老年」講演シリーズ8回の、私は第7回担当です。広島大学の現役の先生たちを中心に講師陣が組まれている中に私が入ったのは、一人ぐらいは本当に歳を取った講師が必要だという理由のようです(推測)。もちろん、体験に基づいた話題を連発し、気持ちのよい2時間になりました。

終了後市内を散歩すると、広場で「オクトーバーフェスト」をやっているではないですか。ドイツの著名醸造元が、ずらりとお店を出しています。嬉しくなって、パウラーナー(ミュンヘン)の白ビールを飲みました。500ccを頼んだところ、2400円を要求されてびっくり。1000円はグラスの返却で戻るシステムでした。それにしても高かったが、おいしかったです。

気分が良くなり、お城のあたりを散策しながら、ここに出す写真を撮ろうとスマホを出しました。そうしたら、石畳で落とし、壊れてしまったのです。禍福あざなう、この日です!

夜、スマホなしで苦労しながら、青木孝夫先生(美学)のしつらえてくれた宴席へ。巨人戦の始まる時刻で、町には緊張感が高まってきていました。坂本のホームランで2対0、巨人リードです。

連続ホームランで怒濤の逆転のさいには、町を揺るがす歓声が上がったそうです。現地にいるのに伝聞として申し上げるのは、お寿司屋さんの個室で、老人問題などを語りつつ、飲んでいたため。外へ出て初めて、歓喜のムードに接しました。

年配のタクシー運転手さんも、嬉しくてたまらないご様子。MVPは新井ですかね、と申し上げると、鈴木誠也に上げたい、好青年なんですよ、とのお話。お釣りを、お祝いに差し上げました。結果は、ホテルのテレビで。

野球がこんなに人を感動させるなんて、すごいですね。間接的ながら、元気をいただきました。

熱気の中へ!2016年09月09日 23時17分16秒

広島カープのことを書かないがどうした、とメールをくださった方がおられます。いやあ最近の怒濤の試合ぶり、すごいですね。キリリと引き締まって、躍動しています。この日を待ちかねたファンの方々の盛り上がり、よく理解できます。

ただ私はアンチ・巨人本籍の悲しさ、いまパ・リーグも白熱しているので、広島本籍の方々の熱さには、ちょっと及びません。でも、人ごとではないのですよ。

なぜなら、どうやら優勝の決まりそうな明日、広島に行くからです。公開講座は「芸術と老年」というシリーズ、私の演題が「音楽で恵まれる加齢の福」というのはどうにもしょぼくミス・マッチなのですが、夜の懇親会がどういうことになるか、見ものですね。どうなりますやら。

パ・リーグは、日本ハムに絞っています。増井が先発に転向してから、すばらしいですね。最後まで、楽しみたいと思います。

今月の「古楽の楽しみ」2016年09月07日 22時15分59秒

先日日本モーツァルト愛好会で、「モーツァルトとヘンデル」という講演をさせていただきました。その経験から、モーツァルトとヘンデルの関係で1つ特集番組ができると思い立ちました。

作ったのは、モーツァルトがかかわったヘンデル作品を集め、そのオリジナルの新録音をご紹介する、という番組です。

12日(月)は、ヴォルフ本のからみで以前ご紹介したモーツァルト《レクイエム》の原曲を、音でお届けしようという試みです。すなわち、〈レクイエム・エテルナム〉の原曲であるキャロライン王妃のための葬送アンセム《シオンへの道は悲しみ》の抜粋と、〈キリエ〉の原曲である《デッティンゲン・アンセム》の当該部分です。前者は、クリスティ指揮、レザール・フロリサンの2013年の録音で。後者は、ようやくCDで手に入ったプレストン指揮の録音でご紹介します。

あとの3回は、ドイツ語テキストに編曲されたいわゆる「モーツァルト版」の残っている4作品から、《アチスとガラテア》を除く3作品のオリジナルを取り上げます。

13日(火)は《アレクサンダーの饗宴》、15日(木)は《聖セシリア日のためのオード》を取り上げますが、どちらも「音楽の力」をテーマとした作品で、いわば、《魔笛》を準備するものです。演奏は新星ネヴィル=タウル指揮、ルードゥス・バロックの新録音です。

14日(水)は《メサイア》ですが、アーノンクール追悼の時に部分的に扱ったのを除けば、《メサイア》を放送するのはこれが初めてです。お待たせしました!

新しい録音をご紹介する機会にしたいと思い、エマニュエル・アイム指揮、ル・コンセール・ダストレの2013年の録音を選びました。繊細にして華のあるすばらしい演奏です。どうか楽しみになさってください。

格別の解放感2016年09月05日 09時26分14秒

仕事が集中している、この夏の終わり。前半のピークが過ぎたところです。

緊張と負担感の由来は、いつものごとく、合唱コンクールでした。今年は、埼玉県大会が昨日にかけて、土・日・日の3日間組まれていました。

その審査がたいへんなことは折にふれて述べていますが、もう一度強調させてください(笑)。開始が午前10時。表彰式の終わるのが、たとえば昨日は20時35分(演奏終了は19時13分)でした。その間、わずかの休憩を挟みながら、1団体数分の間に、演奏へのコメントやアドバイスを書き綴ってゆく。同時に採点をしつつ、順位を考えます。埼玉県のように参加数が多く実力伯仲が何団体も、というところでは、1秒もゆるがせにできない作業が続きます。

加えて、耳の疲労があるのですね。高い周波数を聴き続けるうちに耳が飽和してきて、聴覚の弾力が失われてしまうのです。この段階で大激戦が起こると、実感として、お手上げです。

それだけに、終わったときの解放感は大きい。ただしその前提は、後悔とか、罪の意識とかとの差し引きです。ある程度プラスになればいいのですが、マイナスになったら目も当てられません。

後悔や罪の意識は今年もありました。しかし疲労感も解放感も、かつてなく大きいと感じたのが今回でした。理想にはとても及びませんが、勉強の機会をいただいてきたおかげで、ある程度わかってきたかな、という気がしているのです。同時に、先生方との協力で進める審査の場合には、自分の価値観をブレずに貫き、そこで責任を取るのが最上、いろいろな配慮から修正しても結局いいことはない、という確信ももちました。当たり前と思われるかと思いますが、これは案外、困難なことなのです。

いろいろな団体をご紹介するゆとりはありませんので、とても感心し勉強になったことを一つだけ。

クール・ヴァン・ヴェールという女声合唱団がありますが、この団体はいつも、和声いのち、という演奏をされます。今年は自由曲にミクローシュの《サルヴェ・レジーナ》を歌われましたが、要所に出てくる不協和音をじつに美しく表現されることに感嘆しました。たとえばド・レ・ミが同時に鳴っている和音がフレーズの終わりにあるとしますね。普通はそれぞれの音程を正しく取ることが先決になりますが、この合唱団は、どうです、この和音美しいでしょう、と、耽溺するかのように立ち止まるのです。その集積として、なんとも甘美なマリア像が出現しました。

9月のイベント2016年08月31日 17時56分26秒

3日(土)は、いずみホール年1回のオペラ。河原忠之さんの指揮で積み重ねてきたモーツァルト・シリーズの、《ドン・ジョヴァンニ》です。演出 粟國淳さん、キャストは黒田博さんのタイトルロール以下の豪華版、こちらをご覧下さい。http://www.izumihall.jp/schedule/concert.html?cid=1141&y=2016&m=9 澤畑恵美さんがドンナ・エルヴィーラ、石橋栄実さんがドンナ・アンナという振りに、どうやら工夫がありそうです。14:00からですのでお間違いなく。

4日(日)は全日本合唱コンクール埼玉大会の「大学職場一般部門」と「彩の国部門」。審査委員長をつとめます。

7日(水)、そして21日(水)が、朝日カルチャーセンター新宿校の定例講座です。10:00~12:00のワーグナー講座は《さまよえるオランダ人》の締めくくり。新旧の演出比較や、ピリオド楽器演奏の聴き比べなどを用意しています。13:00~15:00のバッハ・リレー演奏講座は、7日がカンタータ、21日が《ゴルトベルク変奏曲》。どちらも最新録音の紹介です。皆さんの反応も最近活発にいただけるので、楽しみです。

朝日新宿校ではもう一つ、単発のレクチャーコンサートがあります。サントリー・ブルーローズでの《冬の旅》で絶賛をいただいた田中純さん(バリトン)を京都からお招きして、「名バリトンは何でも歌う」と題して行います。バッハの部(カンタータ第82番のアリア)、ドイツ・リートの部、オペラの部(にわとこのモノローグ)、日本歌曲の部(松島音頭など)、歌謡曲の部(南の薔薇/少年時代)という超広いプログラムですが、どれもみな、お上手なのですよ。ピアノは久元祐子さんで、彼女の《ゴルトベルク》のアリアがスタートです。30日(金)19:00~20:30。ぜひぜひお出かけください。

10日(土)は14:00から広島大学公開講座『芸術と老年』というシリーズに出講します(広島県民文化センター)。「音楽で恵まれる加齢の福」というタイトルになっていますが、いかにも自分がやりそうなのが、割り切れないところです。どうなりますやら・・。

17日(土)は、10:00~12:00に立川で「たのくら」。ヴェルディ《オテロ》の第2回となります。

24日(土)13:00~15:00は、朝日カルチャーセンター横浜校のモーツァルト講座。三大交響曲に入ります。第39番変ホ長調を取り上げますが、この曲については最近考えがあるので、準備してお話しします。

29日(木)15:00~17:00から、早稲田エクステンションセンター中野校の秋シリーズが始まります。今回はモーツァルトで、タイトルは「32歳のモーツァルト~見直される『頂点』の年」。モーツァルトが最大数の作品を遺した1788年について、5週連続で講義します。第1回は、とりあえずその年までの生涯を概観します。

長々とすみません。どうぞよろしく。