訂正を兼ねまして2017年06月04日 08時53分00秒

5月31日(水)の朝日カルチャー新宿校で午後のバッハ講座が終わった後、これでこの企画は一区切りにすること、秋から新構想で再開することを申し上げて、受講生さんたちに挨拶しました。この日はパルティータ第6番を採り上げ、皆さんの「選考」から大いに啓発されたところでした。

挨拶を締めくくると、フロアから声あり。まだモーツァルトの《レクイエム》がありますよ、と。えっ?!そういえば、「新録音を紹介しながら演奏比較を行う」企画の中に、今季は《メサイア》と《レクイエム》を入れていたのでした。

というわけで、7日(水)に《レクイエム》をやり、それが本当の区切りになります。もちろん、この手の訂正が増えてきているのはよくない兆候だと自覚しています(原因はスケジューラーへの記入漏れです)。

6月1日(木)はワーグナー《ジークフリート》を新国で鑑賞。これは批評に書きます。ブリュンヒルデの目覚めの場面は、本当にすばらしい音楽ですね。2日(金)はマイ・アーチストというべき田中純さんと久元祐子さんに全力投球で「たのくら」コンサートをやっていただき、とりわけドイツ・リートに、2日続きの涙。会の方々との打ち上げが、お店の良さもあり、楽しかったです。

字幕の調整中に私のパソコンが動かなくなってしまい、開場直前まで必死の修復作業を続けたのは、知る人ぞ知ること。長時間の心配とハイテンションの継続は、あとにたたるというのが最近の通例です。3日(土)は完全休養せざるを得ず、パ・リーグの強さの認識に、みっちり時間をかけました。これはこれで、有意義な時間でした(笑)。

6月のイベント2017年05月31日 00時40分44秒

今月のイベントは上旬に偏っているのに、今頃のご案内になってしまいました。対象は3つだけです。

2日(金)19:00から、立川RISURU小ホールで、「楽しいクラシックの会」のコンサートを行います。「ひろ~い広い歌の世界」と題し、どんな歌にも言葉の命をこめて歌われる朋友、田中純さん(バリトン)の広いレパートリーを聴いていただきます。第1部 バッハ、第2部 モーツァルト、第3部「ドイツのリートとオペラ」、第4部「日本歌曲と歌謡曲」。ピアノは久元祐子さんで、モーツァルトのハ長調K.330のソナタなと、ソロも2曲用意しています。字幕つき、当日券2500円です。

水曜日の奇数週は朝日カルチャーセンター新宿校の講座ですが、7月から9月まで、午後のバッハ講座を休みます。論文の終わった秋から、新装開店するつもりです。午前中の「オペラ史初めから」は継続します。5月31日に導入したリュリの「名場面集」を、7日の10:00から行います。準備しながら、リュリのすばらしさを痛感しています。

10日(土)の13:00から、デザイン・クリエイティブセンター神戸303号室で、私が会長をしている藝術学関連学会連合の第12回公開シンポジウムを開催します。「21世紀、いま新たに装飾について考える」というテーマで、諸学会持ち寄りの研究発表とディスカッションが行われます。詳細はこちらから。http://geiren.org/

装飾は音楽における根本的な要素ですので、私も久元祐子さんのお力をお借りして、西洋音楽における装飾のプレゼンテーションをします。東洋音楽学会も、遠藤徹会長が、小日向英俊さんのシタール演奏を解説します。藝関連ならではの企画だと思いますので、ぜひお出かけください。入場無料です。

11日(日)から、例年のごとくドイツのバッハフェスト・ライプツィヒに出かけます。学会があるため、1日遅れの参加となります。急にアクセスが増加したりしないように、堅実かつ地味な旅行にしたいと思っております。

今月のCD2017年05月30日 08時50分07秒

高田三郎先生は、かつて職場を同じくさせていただいていた方で、野球の雑談をよくしたことを覚えています。厳しい御指導を受けて成長され、先生のお仕事を伝えていきたい、と志している方が何人もおられます。

その先生の「混声合唱のための典礼聖歌Ⅲ」、題して「イエスのみ心」という新譜が、松原千振指揮、エリザベト シンガーズで出ました(フォンテック)。

これが、すばらしいのです。カトリック教会が母国語による礼拝に踏み出してから半世紀になりますが、このCDも、日本語によるミサ礼拝をたどる構成の中に、「典礼聖歌」と呼ばれる曲たちが並べられています。

様式的には単純の極みなのですが、カトリックの伝統、日本の文化伝統に配慮をめぐらせながら新しい聖歌を創出したいという姿勢がはしばしに窺われ、先生の偉大さを痛感します。演奏がその透明感、清浄感をみごとに体現して、心洗われるひとときを作り出していて、たいしたもの。信徒か否かを超えて、一聴をお薦めします。

もう一つ、山田和樹指揮、スイス・ロマンド管の近代フランス舞踏音楽集(キング)が、さすが活気にあふれて新鮮な演奏です。ルーセルの《バッカスとアリアーヌ》がとても面白く、敬遠していたこの作曲家を見直しました。

先日紹介した小山実稚恵さんの《ゴルトベルク変奏曲》は、私が解説を書いていますので、新聞には入れませんでした。本来なら、特選盤ともしたいところです。

国際色横溢のコンクール&フェスタ2017年05月27日 09時07分11秒

ナビゲーターの仕事を終えたあと、20日(土)は大阪国際室内楽「コンクール」の本選を、21日は大阪国際室内楽「フェスタ」のセミファイナルを見物しました。

外国のすでにして高いレベルをもつ団体が次々と登場すると、いかにも国際コンクールだなあ、という実感が。弦楽四重奏曲の部では3団体がベートーヴェン、シューベルトの大曲を全曲弾きましたが、休憩もその都度置かれて、コンクールには珍しい、ゆったりした雰囲気があります。

こちらではアメリカの3団体が決勝に残っていて、トップ争い。後半は木管五重奏、金管五重奏、サクソフォン四重奏の部となり、フランス3、ドイツ1の対決になっていました。審査をしないと本当に気楽に聴くことができます。審査員の先生方は、長時間、本当にお疲れさまです。

「コンクール」はこのように正統派なのですが、「フェスタ」が独特で、面白いと思いました。2~6名であれば、編成自由、領域自由、年齢制限も国別制限もなし、民族音楽も可、という自由度の高さなのですね。しかもそれを、一般公募の審査員が、130人ぐらいで審査する。どんな進行になるのか、興味津々でした。

それでわかったのは、この「フェスタ」、一芸に自信のある人たちが世界から集まって、聴かせる、見せるの、じつに楽しいステージを展開するということです。セミ・ファイナルは2団体ごとに演奏→投票を3回繰り返し、3団体がファイナルに進むというシステムでした。ちょうと国会のように、審査員の皆さんがぐるぐる歩きながら投票し、休憩後即発表される。これも緊張が途切れないので、いいやり方です。

いつも審査員の側にいる私としては、そうなるとどういう判定になるのかに興味をもっていました。結果はまことに順当なものでしたが、どの比較でも結果がつねに7対5になったのが、価値観の多様性を反映して、面白いと思いました。

次は3年後です。きわめてユニークな楽しめるコンクールですから、皆さんに一訪をお薦めします。

入魂のシューベルト2017年05月23日 07時05分47秒

19日(金)のコンサートは、コンクールが続く中に置かれた、審査員の出演するスペシャル・コンサート。弦楽四重奏団が集結する中で五重奏を、という洒落た趣向です。プログラムには、モーツァルトのクラリネット五重奏曲、シューベルトの弦楽五重奏曲という、超名曲同士が並んでいました。

モーツァルトは、フランスの名手ミシェル・ルティエクさんと、クアルテット・エクセルシオの出演。ルティエクさんは人なつこく愛嬌のある、魅力的な方。演奏も際立った音色と技巧を駆使しつつ、明るい生命力にあふれていました。

この曲をこういうイメージで聴いたのは初めてで、こういう風にもできるんだなあと、感心。こうやると、この曲も「最後の4年」の前向きモーツァルト観につながりますね。発見です。

シューベルト最晩年のハ長調五重奏曲は、最近、本当にすごさを感じるようになった作品です。解説のために勉強して、現世を超えるようなその神秘的な世界に、ますます引き込まれてしまいました。

こちらは審査委員長の堤剛さんが第1チェロで入り、その神のごとき包容力のもと、クアルテット・エクセルシオが入魂の演奏。私は大いに感動し、終了後の楽屋で、「何ものにも代えがたい1時間でした」と、心から申し上げました。シューベルトの、器楽の最高傑作はこれですね!大好きな《グレート》交響曲を、さらに上回るという印象です。

蛇足ですが、モーツァルトのクラリネット五重奏曲を聴くとほとんどの演奏においてクラリネットが引き立てられ、弦楽器が一歩退いています。それが常識になっているようにも感じます。

でもそれは、正しいでしょうか。モーツァルトは、いつもクラリネットを聴かせるように書いてはいません。主役が弦楽器に移ってクラリネットが伴奏に回るところもしばしばあり、それによる多彩なテクスチャーの変化が、この曲の魅力の重要な一つなのです。ですので、弦楽器がもっと主導性をもって「作品」に関与すべきだと、たいていの場合に思います。このことは、クラリネット奏者にもぜひ考えていただきたいことです。

パソコン環境は統一すべし2017年05月21日 23時23分51秒

長いこと、オフィスを使っています。1にWord、2にPowerPointで、Exelはほとんど使いません。基本的な機能だけで済むのですが、バージョンアップはその都度しています。

しかし、現在のノートパソコンを購入したとき、Officeはいらないかな、と思ったわけですね。そこでOpenOfficeを入れ、Google-Slidesを併用する形で、乗り切ってきました。ノート(レッツノート)を使う機会が減少しましたから、一応なんとかなっていたのです。

でもやっぱり、慣れない分だけ、いろいろなところで無駄が重なります。それって結構馬鹿にならないなあ、という思いが、今回の経験で決定的になりました。

私は19日(金)、大阪国際室内楽コンクールのスペシャル・コンサートで、ナビゲーターを依頼されていたのです。短い解説時間を最大限活用するために、かなり詳しい原案を文書化して用意するのが最近のやり方。リハーサルが終わり、イメージを掴んでから最終バージョンを作りましたので、完成は開場後、開演の迫る頃になりました。

原稿はいずみホールにメールで送り、プリントアウトしてもらう段取りでした。ところが、アプリが違うためにファイルの保存先がわからなくなり、送るに送れなくなってしまったのです。

私はめったにパニックにはなりませんが、いざなると、当たり前のことでもできなくなるタチです。そのせいか見つからず、時間は迫るで大いに焦り、仕方がない、ノートパソコンをもって舞台に出て、それを見ながらやる形で許してもらおう、と思い、ノートを片手に、ホテルからホールに走りました。

しかし、気づいたことあり。ファイルが見つからなければ、パソコンをもっていても無用の長物だ、ということです。必死の作業でファイルを探し出し、送ったファイルのプリントをすぐスタッフが届けてくれて、事なきを得ました。

出先ではどうしても慣れていない方のマシンを使うわけですよね。ですから、環境はぜひ統一しておくべきだと思います。学会などで、ノートパソコンの操作で立ち往生する発表者を案外よく見ます。私だけのことではないように思います。

話が遠回しになりましたが、この感動的だったコンサートとその母体である国際コンクールについて、次にご報告いたします。

日進月歩2017年05月16日 09時47分28秒

ランサムウェアの被害に世界中が巻き込まれているという話は、人ごとではありません。便利はかならず裏腹の危険を伴っているのが、世界というもの。しっかり対処したいですね。

数日前私は、Windows立ち上げの際にパスワードを打ち込めないという状態になり、立ち往生しました。ノートパソコンを代用しながら症状を文章書きして検索し、ソフトキーボードを使うことで、幸い解決することができました。これは、ネット環境をマルチでもっているという発展のおかげです。

それにしても、ネットの情報展開はすごい。どんな分野でも右肩上がりに進んでいることなので、資金や人手がどうやって確保されているのか、その都度心配になります。

ドイツに行く前に何とかたたき台を作り、何を調べるべきかをはっきり絞り込もうと思っている、《ヨハネ受難曲》の論文。福音書研究の部と作品研究の部では一応の原案を作ったのですが、それをつなぐ前史の部分に課題が多く、後回しになっていました。

ところが、これもネットでただならぬ量の情報が手に入ることがわかり、驚くやら、ありがたいやら。宗教改革時代の神学書がずらりとデジタル化されていることについては先日お話ししましたが、Petrucciの楽譜サイトも、たいへんな発展ぶりですね。バッハ以前の、誰も知らないような受難曲の楽譜も、一応と思って検索してみると、かなりの確率で出てくるのです。おかげで、そのあたりもどうやら形をなしてきました。

以前は、ネットでは研究はできない、なぜならそこには「情報」しかないからだ、と言われていました。しかしいまや、じっくり研究するに足る資料が、ネットで手に入るわけです。私は足を使う研究は苦手な方なので、このありがたみをぜひ生かしたいと思います。

今月の「古楽の楽しみ」2017年05月10日 09時45分38秒

「聖母マリアの音楽」は6月に続編をやりますが、5月は軽く中継ぎということで、バッハの鍵盤楽曲を特集しました。まだ一度も出したことのない曲がたくさんありますので、そうした曲が中心となっています。チェンバロとピアノを取り混ぜる、できるだけ新録音を多くする、という方針は、いつもの通りです。

15日(月):
 2声インヴェンションBWV772~789 シャオ・メイ(ピアノ)
 3声シンフォニアBWV790~801 トーマス・ラゴスニク(チェンバロ)
(いずれも2015年の最新録音です。少し弦楽器で演奏したものも入れたかったのですが、全曲2つで、時間がぴったりでした。)

16日(火):
 2声インヴェンションBWV772~789 リリアーナ・スタヴァルツ(チェンバロ)
 3声シンフォニアBWV790~801 ティル・フェルナー(ピアノ)
(演奏のコンセプトも異なりますから、ピアノとチェンバロを入れ替えて聴く日を2日目としました。録音は2011年、2007年です。お好みでどうぞ)

17日(水):
 プレリュードとフーガイ短調BWV894 リチャード・エガー(チェンバロ)
 トッカータホ短調BWV914 同(チェンバロ)
 トッカータハ短調BWV911 レミ・ジュニエ(ピアノ)
 トッカータト長調BWV916 アンドレアス・シュタイアー(チェンバロ)
 6つの小プレリュードBWV933-938 カール=アンドレアス・コリー(ピアノ)
(初期作品から、3つのトッカータの華々しい競演となりました。チェンバロの両巨匠はもちろん立派ですが、超新人のジュニエの22歳/2014年録音がめざましく、金曜日に特別コーナーを設けることに。)

18日(木):
 チェンバロ協奏曲ニ長調BWV972(原作:ヴィヴァルディ) ヴィタール・ユリアン・フレイ(フライ?)(チェンバロ)
 チェンバロ協奏曲ニ短調BWV974(原作:A.マルチェッロ) アンドレア・バッケッティ(ピアノ)
 チェンバロ協奏曲ハ短調BWV981(原作:B.マルチェッロ) オリヴィエ・カヴェー(ピアノ)
 ソナタイ短調BWV965(原作:ラインケン) アンドレアス・シュタイアー(チェンバロ)
(バッハのコンチェルト編曲はオルガン用もありますが、チェンバロ用の方が多数です。イタリアの、明るい風が吹きます。)

19日(金):
 イタリア風アリアと変奏BWV989 アンドレア・バッケッティ(ピアノ)
 ファンタジーとフーガイ短調BWV945 ピエール・アンタイ(チェンバロ)
 アルビノーニの主題によるフーガロ短調BWV951 同
 〔特設コーナー〕
 旅立つ最愛の兄に思いを寄せるカプリッチョBWV992 レミ・ジュニエ(ピアノ)
(作品目録鍵盤部門の終わりの方に並ぶ曲が中心ですが、案外楽しんでいただけると思います。最後に、すでに放送した曲であるおなじみのカプリッチョを、ジュニエへのアンコールという形で入れました。BWV945は、プレハッチの新譜にも入っていることに気づきました。ブレハッチのアルバムからは、12月の新譜紹介のさいに何か入れるつもりです。)

5月のイベント2017年05月08日 09時19分07秒

皆様、連休はいかが過ごされましたか。私は今年ようやく、本当の連休が実現しました。3日から4日間、論文の準備に専念できました。7日は立川「たのくら」の例会でしたが、イベントのご案内を差し上げていなかったことに気づきました。

今月は、早稲田大学エクステンションセンター中野校のモーツァルト講座が、あと2回あります。11日(木)は「34歳のモーツァルト~ヘンデル体験の積み重ね、フランクフルト旅行の明暗」。18日(木)は「35歳のモーツァルト~ピアノ協奏曲第27番と、それに続く諸作品」。いずれも15:00~17:00です。「35歳のモーツァルト」というテーマは秋のシリーズで本格的に展開しますが、いわばその足がかりです(コンチェルト時点ではまだ34歳)。

朝日カルチャーセンター新宿校は、3日が休日だったため、第3(17日)と第5(31日)の水曜日になります。10:00~12:00の「オペラ史初めから」は、17日が《ポッペアの戴冠》第3回、31日は《ヴェルサイユの栄華》第1回です(リュリ)。13:00~15:00のバッハ演奏の講座は、17日が「最新録音で聴くフランス組曲」、31日が同じく《パルティータ第6番》です。後者は曲目が変更になっていますのでご注意ください。

15日からの週は放送が出ますが、詳細はあらためて(バッハのチェンバロ/ピアノ曲です)。その週、いずみホールで「大阪国際室内楽コンクール&フェスタ」が開かれていますが、19日(金)の19:00から開かれる特別コンサートで、ナビゲーターを務めます。シューベルトの弦楽五重奏曲とモーツァルトのクラリネット五重奏曲という、超弩級のプログラム。出演は審査委員長の堤剛さん(チェロ)とミッシェル・ルティエクさん(クラリネット)、クアルテット・エクセルシオです。本選も覗いてみます。

25日(木)は朝日新宿校の宗教改革講座の第2回。「新約聖書と宗教改革」というテーマで、ルター訳の新約聖書が音楽で生かされた実例を紹介します。10:00~12:00。

27日(土)は同横浜校のモーツァルト講座(13:00~15:00)。ピアノ協奏曲シリーズの今回は、隠れた名曲ともいうべき第22番変ホ長調です。名演奏にもご期待ください。

6月の予定は、早めにお知らせします。

(付記)いったん、28日(日)にすざかバッハの会とご紹介しましたが、7月9日の誤りでした。お詫びして訂正します。

小山実稚恵、前人未踏の《ゴルトベルク変奏曲》2017年05月05日 10時29分09秒

これは本当に驚きました。小山さんを尊敬します。

小山さんと私はバッハを通じて結構接点があり、コンサートをお願いしたこともありますし、対談したり、プレイベントにお邪魔したこともあります。そのためでしょうか、30周年記念として《ゴルトベルク変奏曲》を録音されるにあたり、一度聴いてくれないか、というお誘いをいただきました。都内の立派なリハーサル室です。

演奏が始まると、小山さんの演奏と私が日頃温めている考えの間に、一定の乖離があることがわかりました。それは当然のことで、もちろんそのままでもご立派なのですが、せっかくこの場があるのだから、小山さんがどう思われるか、私なりにいろいろ提案してみようと思い立ちました。

イメージを伝えると、それをすぐ音にされます。実験し、可能性を吟味するうちに、乖離がいつのまにか、すーっと消えていったのですね。一緒に音楽をする楽しさに、文字通り時間を忘れました。用意した2時間をずっと過ぎてしまい、次の予定地へとあわてて向かったことを思い出します。

というわけで貴重なひとときだったわけですが、私の役割はそれで終わり。後をどう作り、どんな録音を作られるかは、小山さん次第です。基本的には、ご自身の解釈に、ある程度の変容を含みつつ戻られるのではないかと予想していました。

さて時間が経ち、今日発売されました、との報告をいただきました。CDはすでに届いていたので、おそるおそる、聴いてみました。

それでわかったのは、あの時間に湧いてきたものを小山さんが温めて先へ先へと究められ、高い完成度へともたらされた、ということです。

演奏は潤いがあり、軽やかな踊り感覚にも満たされて、優雅。やや抑えたテンポから、行間の味わいがにじみ出てきます。洒落た利かし、ちょっとした発見が、あちこちにちりばめられている。3声曲が多いですが、その3声がすごく丁寧に弾き分けられていて、どの声部にも、命が吹きこまれている。バッハのポリフォニーをして、自ら語らしめるという行き方なのです。小山さんの新境地を伝える、稀有の演奏と申し上げましょう。

ライナーノートにはご自身の挨拶や美しい写真の数々が載せられています。解説は私ですが、音が仕上がる前にお渡ししましたので、演奏について触れることが出来ませんでした。この場をもって、代えさせていただきます。ぜひ、広く聴かれますように。