今月の「古楽の楽しみ」2016年05月07日 07時56分56秒

ご案内しましたように、今月はバッハのヴァイオリン協奏曲特集です。有名曲ながら第1番、第2番ともにまだ取り上げたことがなく、周辺曲と併せて特集することにしました。ポリシーは、全部ヴァイオリニストを変えること、21世紀の新しい録音で揃えることです。

9日(月)は、3曲のオリジナルをまずご紹介します。
第1番イ短調:ユリア・フィッシャー+アカデミー
第2番ホ長調:ミュレヤンス+フライブルク・バロック・オーケストラ
2つのヴァイオリン用ニ短調:平崎真弓+カルミニョーラ+コンチェルト・ケルン
余った時間に、第1番のフィナーレをオルガン独奏(ボッカッチョ)で聴きました。これがたいへん面白く、時間調整ができて、変化もつけられる。結局、3度にわたって使いました。

10日(火)は、チェンバロ協奏曲から復元されたヴァイオリン協奏曲。
イ長調BWV1055:イブラギモヴァ+アルカンジェロ
ト短調(復元の調性)BWV1056:ポッジャー+ブレコン・バロック
ニ短調BWV1052:ミドリ・ザイラー+ベルリン古楽アカデミー
2つのヴァイオリン用BWV1043のフィナーレ:ボッカッチョのオルガン(弾けるものですねえ)

11日(水)は復元された作品を、複数のソロ用を中心に。
ニ長調BWV1053:ムローヴァ+ダントーネ
3つのヴァイオリン用ニ長調BWV1064:サッソ+インシエーメ・ストルメンターレ・ディ・ローマ(ソロは3つのヴァイオリンですが、合奏の側でオーボエとファゴットが活躍するように復元されており、新鮮です)
オーボエとヴァイオリン用ハ短調BWV1060:カフェ・ツィンマーマン

12日(木)は他楽器のソロが入るコンチェルト。
フルート、ヴァイオリン、チェンバロ用イ短調BWV1044:テル・リンデン+アリオン・バロック・オーケストラ
第2番BWV1042の第1楽章:ボッカッチョのオルガン
ブランデンブルク協奏曲第4番ト長調:ベルナルディーニ+バット
同第5番ニ長調の第2楽章:同

活気のある、リズミカルな作品がたくさん。元気な朝をお届けします!

今月の「古楽の楽しみ」2016年04月05日 09時27分28秒

スタッフで会合をもっていた時、アーノンクールの追悼番組をやったらどうか、という話が持ち上がりました。さっそく興味を覚えて私が引き受け、4日間の番組に構成しました。なにぶん長命で、大きな発展を遂げた音楽家です。新たに聴き直してみると気がつくことがいろいろあり、たいへん面白い経験をしました。ぜひ聴いてください。

11日(月)は、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとの初期の録音を振り返りました。古い楽器を集めては修理し、音を出して、というのをやっていた頃です。「マクシミリアン1世の宮廷音楽」からイザークを2曲、「フックス作品集」から《ロンドー》。初期の録音は青年らしく端正で、私の記憶していたイメージとはかなり違う印象でした。皆さん、どうでしょう。

私はアーノンクールの歴史的貢献はモンテヴェルディをもって第一とする、と思っているので、1968年の《オルフェオ》旧盤から、いくつかの場面を出しました。ういういしく新鮮で、とてもいいと思います。キャシー・バーベリアンや、若き日のマックス・ヴァン・エグモントも忘れがたいです。最後に73年の《ポッペアの戴冠》から、セネカの死の場面を加えました。

12日(火)は、アーノンクール自身の音が聴ける室内楽を中心に。バッハのカンバ・ソナタ第1番から始めて、ブリュッヘンとの共演によるヘンデルのトリオ・ソナタ、フリードリヒ大王のフルートを使ったヴィヴァルディの協奏曲《夜》、シェフトラインとの共演によるテレマンのオーボエ・ソナタというプログラムにしました。

13日(水)は、レオンハルトと曲を折半して録音したバッハ・カンタータ全集の回顧。初期のおずおずした取り組みから、アーノンクールらしい修辞学的テキスト解釈が発展していく様子がわかるように編集しました。全曲録音は彼にとって、また奏者にとって大きな学習過程であったと実感します。選んだのは第1番の冒頭合唱曲(ホルンがまだ・・)、前半の珠玉である第68番、後半から、真価のよくあらわれた第179番です。

14日(木)は、大指揮者となってレパートリーを大きく広げた後期から、折にふれて発表された古楽のライヴ録音、およびモーツァルトを取り上げました。バッハの《クリスマス・オラトリオ》、ヘンデルの《メサイア》と《アレクサンダーの饗宴》、モーツァルトの初期交響曲と《レクイエム》、最後にバッハの《マタイ受難曲》という選曲は、まるでリクエスト名曲集ですね(笑)。

雄大でドラマティックになった後期の演奏、古楽としてどうなのかという思いを抱いてもいましたが、こうやって聴いてみると、研究に基づく大局観がつねに先行していて、やっぱりたいしたものだと感服しました。皆様の好みでお確かめください。

今月の「古楽の楽しみ」2016年03月03日 18時16分00秒

今月は、バッハの《マタイ受難曲》です。この番組7年間やって来ましたが、《マタイ》を通して取り上げるのは初めて。このところ初稿の演奏・録音が盛んなので、初稿BWV244bをメインにしてみました。ちょっと、凝りすぎたかもしれません。

7日(月)は、リチャード・エガー指揮、エンシェントの2014年新録音で、第1部のゲツセマネの園の場面(第20曲のテノール・アリア)まで。エヴァンゲリストのギルクリストとアルトのコノリー、いいですね。その前に、ヤーコプス指揮(2012年)で、改訂稿の冒頭合唱曲を聴きました。

8日(火)は、同じエガーの演奏で第1部最後まで。初稿は短いコラールで終わってしまうので、ヤーコプス盤で第29曲を補いました。この曲、本当にいいなあと思うようになっています。

ここで演奏をシーモア~ヨークシャーの2013年に変え、第2部の第30曲から第40曲までを。これはリフキン方式によるもので、ソリストを2グループ使っています。

初稿は、第2部最初のアルト・アリア(30)がバス・アリア(!)になっているのが驚きです。そこで9日(水)は、30をアルトでまず聴き直しました。演奏は2009年のクイケン(これもリフキン方式)、アルトはノスカイオヴァーです。それからシーモアに戻り、56のバス・アリア《来るのだ、甘い十字架よ》までを。初稿はリュート伴奏ですが、音型としてはリュートはぴったりです。歌い手がリュートにしっかり合わせなくてはなりませんが、ハーヴィーなのでばっちりでした。その後に、お馴染みのガンバ伴奏の稿を補いました。ガンバは弟の方のクイケン、バスはクラッベンです。

10日(木)は、シーモアの演奏を、〈ああゴルゴタ〉から最後まで。エヴァンゲリストのダニエルズが弱いのがかなり残念です。最後に、改訂版のゴルゴタ以降を、ヤーコプスからの抜粋で聴いて終わりました。

初稿は必ずしもお薦めできませんが、話の種に、どうぞよろしく。

今月はヘンデル三昧で2016年02月04日 22時50分09秒

今月の「古楽の楽しみ」、再放送よりは新しい企画をということで、オール・ヘンデルを作りました。 op.3のコンチェルト・グロッソを聴き進めながらいろいろな作品を混ぜていく、という趣向です。当初器楽曲のみと考えていましたが、結局、声楽曲もいくつか入りました。にぎやかな朝になります。

2月8日(月)は、 op.3-1変ロ長調から出発します。ターフェルムジークの活発な演奏で。次がユトレヒト・テデウム。イギリスにおけるヘンデルの地歩を固めた作品です。これはプレストン~エンシェントを使いました。最後はオルガン・コンチェルト op.4-4です。来日中のギエルミの演奏です。

9日(火)は、 op.3-2変ロ長調から。演奏はモルテンセン~EUバロック・オーケストラの新録音です。次に、《ユトレヒト・テデウム》の姉妹作、《ユトレヒト・ユビラーテ》。演奏は同じくプレストンにしました。次に op.3-3ト長調を、ホグウッド~ヘンデル&ハイドン・ソサエティで。最後を、アランのオルガンとフライブルク・バロック・オーケストラの演奏するオルガン協奏曲 op.4-2で締めました。

10日(水)は、 まずヘ長調op.3-4をピノックで。ピノックの演奏は、やはり一番安心して聴けますね。生き生きして、品格があります。次に、ピノック編の《パッサカリア、ジーグとメヌエット》。これはトリオ・ソナタからの編曲なのですが、とてもいい曲です。彼の《王宮の花火の音楽》のCDに入っています。

次に同じくピノックで、協奏曲ヘ長調HWV331(演奏は間に op.3-5のアダージョを挿入)。「古楽の楽しみ」のテーマソングは《水上の音楽》と認識されていると思いますが、じつはこのHWV331、パロディ作品なのです。次にニ短調 op.3-5を若き日のアーノンクールで聴き(ちょっと作りすぎのような)、《戴冠式アンセム》の〈あなたの御手が強められ〉で結びます。演奏はモルテンセン。

11日(木)は、残るニ長調 op.3-6を、ミンコフスキの元気のいい演奏で。オーボエ協奏曲ト短調(ピノック)、協奏曲《アレクサンダーの饗宴》(ベルリン古楽アカデミー)、ハープ協奏曲(ローレンス=キング)と進み、締めは〈シバの女王の登場〉(ピノック)にしました。この日のみ、オール器楽となりました。

ヘンデルの音楽は、とにかくにぎやか。スピーカーから飛び出そうなそのエネルギーを浴びて、元気を出していただければと思います。

今月の「古楽の楽しみ」2016年01月07日 23時49分05秒

今月は、バッハのカンタータ特集です。カンタータはおりおりやっていますが、なにぶん傑作の森ですから、やっていない曲の方がはるかに多い。たとえばもっとも有名な第147番は、温存しているうちに今に至ってしまいました。これが、今回の切り札。第182番も初めてで、既出の作品は第1番だけです。

147、182を含むテーマとして、「マリアの祝日」を設定しました。しかしバッハ時代のマリアの祝日は、計3日しかありません。1日足りないので、ヨハネの祝日を組み合わせることにしました。演奏は曲ごとに変え、なるべく新しいものを使います。カンタータの新しい録音は結構あるのに、国内では紹介されないままになっているからです。

11日(月)は、ヨハネの祝日用カンタータ。第167番をガーディナーで聴き、そこで使われているルターのコラール《われらの主キリスト、ヨルダンの川に来たり》をオルガンと合唱で取り上げた後、このコラールに基づく第7番を、ローランド・ウィルソンの新録音で聴きます。リフキン方式(ソリスト4人が合唱も担当する)による演奏ですが、そのシェアはますます増加しています。

12日(火)は、お告げ(受胎告知)の祝日用作品。第182番、第1番は、どちらも著名作に属するものです。第182番には、スイスのザンクト・ガレン・バッハ財団の演奏を使いました。ルドルフ・ルッツの指揮のもと、急ピッチで全曲録音を行っているグループです。そのきびきびした演奏は、一聴に値すると思います。第1番には、次世代のエース、ハンス=クリストフ・ラーデマン指揮のドレスデン室内合唱団とベルリン古楽アカデミーを選びました。これは2011年のライプツィヒ・ライヴです。

13日(水)は訪問の祝日特集。ここに第147番、そして第10番(ドイツ語マニフィカト)を置きました。第147番の演奏は、マグダレーナ・コンソートの最新録音です。バスのピーター・ハーヴィーが指揮を執り、エリン・マナハン・トマス、ダニエル・テイラー、ジェイムズ・ギルクリストというそうそうたる顔ぶれで、重唱(リフキン方式)が組まれています。「今」にふさわしい、いい演奏です。第10番は、ローラント・ビューヒナー指揮のレーゲンスブルク大聖堂聖歌隊で。ソプラノのリュデーンさん(←旧知なので)が、さすがの歌唱を聴かせてくれます。

14日(木)は、清めの祝日。一番有名なのは第82番ですが、それはもう取り上げましたので、第83番、第125番を選びました。演奏は第83番がBCJ、第125番がヘレヴェッヘです。これのみ1900年代の演奏です(とてもいいと思います)。両曲に出てくるシメオン・コラールを合唱とオル、ガンで聴きますが、オルガンにはヴァルヒャのモノラル録音を使ってみました。しみじみと心に迫ります。

どうぞお楽しみください。

今月の「古楽の楽しみ」2015年12月07日 15時52分31秒

今月は、バッハのヴァイオリンとチェンバロのためのソナタBWV1014~19を、若干のヴァイオリンと通奏低音のためのソナタを加えて特集しました。新しい録音もずいぶん出ていましたので、演奏が重ならないように幅広く構成しました。

12月14日(月)は、第1番ロ短調BWV1014をバンキーニで、第2番イ長調BWV1015をカルミニョーラで。残った時間に、通奏低音付きのソナタト長調BWV1021をトリオ・ソネリーで、同じくホ短調BWV1023を、エレーヌ・シュミットで。この日は全部バロック・ヴァイオリンです。

15日(火)は、第1番のモダン・ヴァイオリン演奏から。奏者はフランク・ペーター・ツィンマーマンです。次はバロック・ヴァイオリンに戻り、第3番ホ長調をアンドルー・マンゼで。ここでラレード+グールドによるその第2楽章をはさみました。有名な第4番ハ短調BWV1017は、ムローヴァ+ダントーネで(バロック・ボウ、バロック・ピッチ)。

16日(水)は、第4番をラレード+グールドでもう一度聴き、そのシチリアーノ編曲(byストコフスキー)と、アダージョ編曲(by小糸恵)を紹介しました。第5番ヘ短調BWV1018は、古楽側の往年の名演、クイケン+レオンハルト。最後に通奏低音付きのソナタヘ長調BWV1022を、ヘーヴァルトの新録音で。

17日(木)は、複数の稿で遺されている第6番ト長調を、初稿BWV1019aと改訂稿BWV1019で比較しました。前者がポッジャー+ピノック、後者がブンディース+高田泰治です。最後に、BWV1020ト短調のソナタ(偽作)を、ゲーベルのバロック・ヴァイオリン演奏で加えました。普通フルートで演奏されますが、ヴァイオリンもなかなかいいですね。

というわけで、ピリオド対モダン、古い録音対新しい録音の大混戦、という感じの構成になりました。でも、それぞれに面白いです。モダンの名手がバロック奏法を理解して採り入れた場合、さすがに立派な結果が生まれるように思います。

今月の「古楽の楽しみ」2015年11月08日 22時30分26秒

アインシュタインに『音楽における偉大さ』という本があります。その趣旨は、日本でも音楽室に並んでいる大作曲家のステイタスを検証すること。そこで疑われている一人が、グルックです。たしかに、一昔前「オペラ改革者」として有名だったグルックが、このところ、あまり聴かれていないように思います。

そこで、「古楽としてのグルック」という番組を作りました。モーツァルト、ハイドンに次ぐ企画ですが、グルックはC.P.E.バッハと同じ1714年生まれ、ハイドンより18歳も年長ですから、時代的には、そんなにおかしくありません。しかし作風は、明らかに古典派のものです。

スタート(16日、月)はやはり、《オルフェオとエウリディーチェ》から。ちょうどアルゼンチンのカウンターテナー、フランコ・ファジョーリがエキルベイと共演した最新盤が発売されましたので、それを使いました。ウィーン稿によっています。

1日ぐらい器楽を入れたかったのですが、あいにくグルックは、器楽がとても少ないのです。そこで17日(火)は、バレエ曲がいくつも挿入されている《オルフェオとエウリディーチェ》のフランス語版を、挿入曲を中心に取り上げることにしました。有名な〈メロディ〉は、ここに出てきます。演奏は、ミンコフスキ。余白に、バレエ音楽《ドン・ファン》の一部を、ヴァイルの演奏でプラスしました。

18日(水)は、ウィーンからパリに進出したグルックが大成功を収めた作品、《オーリドのイフィジェニー》です。この曲はフルトヴェングラーやクレンペラーが指揮した序曲で知られていますが、その《アウリスのイフィゲニア》は、ワーグナー編曲のドイツ語版。ロマン的に潤色されています。もちろん放送では、ガーディナーのフランス語版を使いました。

19日(木)は、最後期の作品で傑作の誉れ高い《トーリドのイフィジェニー》を、ミンコフスキの演奏で。まぎらわしいタイトルですが、《オーリド》の後日談です。神話的に古風な《オルフェオ》とは大きく異なる、緊迫感にあふれた作品になっています。

こうして集めてみると、なかなかすごいです。ディレクターがずいぶん感心していたので、間違いないと思います。ただ一点気がついたのは、グルックの旋律が、ほとんど順次進行であること。音階の連続が多いです。音を散らす人って、特別に才能があるんでしょうね。ヘンデルしかり、ワーグナーしかりです。

今月の「古楽の楽しみ」~ケーテン侯葬送音楽(2)2015年10月16日 08時10分44秒

葬送音楽は4つの部分に分かれ、第1部が合唱2、アリア2、レチタティーヴォ3。第2部は合唱1、アリア2、レチタティーヴォ3(ただし合唱曲は最後にも歌われる)。第3部はアリア3とレチタティーヴォ2。第4部が合唱1、アリア2、レチタティーヴォ2という構成になっています。このうち第1部の合唱2曲が選帝侯妃追悼カンタータ(198番)から、アリアはすべて《マタイ受難曲》からのパロディというのが通説で、第2部の詩篇合唱曲のみ、定説がありませんでした。

これがフーガ様式の合唱曲であることは予想されますので、ピションの研究チームは、ここに《ロ短調ミサ曲》の第2キリエ(!)を割り当てました(先行したパロットの復元では198番の第7曲)。適否は軽々しく言えませんが、印象としては、唐突の感があります。《ロ短調ミサ曲》がパロディなら知られざるルーツを突き止めたい、という思い入れが入りこんだ感じを抱きます。

おなじみの曲が次々と出てくるさまに接すると、バッハは領主の追悼音楽を既作品で間に合わせたのか、という疑念が、かならず出てくるはずです。しかし、そうではありません。なぜなら、個別作品にはほとんど触れていない『故人略伝』の伝記部分がわざわざこの追悼音楽に触れ、「バッハは、かくも懇ろな寵愛を賜った主君のために、ライプツィヒから葬送音楽を作曲し、それをみずからケーテンで演奏することで、悲しい満足を味わった」と述べているからです。

したがって、バッハがこの作品をきわめて重視したことは明らかです。それを《マタイ》と選帝侯妃追悼カンタータからのパロディで構成したのは、亡き主君に自分の最高の音楽を捧げようと思ったからに違いないでしょう。

楽譜が残っていたらと、惜しまれます。新作されたレチタティーヴォの力によって、そのことがひしひしと感じられるような曲になっていたと思われるからです。《クリスマス・オラトリオ》が成功しているのは、パロディをつなぐレチタティーヴォやコラールが新作され、クリスマスの気分を新鮮に作り出しているからです。しかしピションの復元はレチタティーヴォも《マタイ》を下敷きにして作っているので、「もってきた」感がぬぐえません。レチタティーヴォの重要性が、あらためて実感されます。

ともあれ、音になったひとつの研究成果をお楽しみください。

今月の「古楽の楽しみ」~ケーテン侯葬送音楽2015年10月13日 08時13分11秒

ラファエル・ピションによるバッハ《ケーテン侯のための葬送音楽》BWV244aのCDを入手し、興味を惹かれたので、「古楽の楽しみ」で取り上げることにしました。4つの部分に分かれていて、各20分弱。そこで月曜日(10月19日)から木曜日(10月22日)までに各部分を振り分け、残りの時間をオルガン曲で構成しました。

バッハがいわゆるケーテン時代(1717~23)に音楽好きの領主レオポルト侯に宮廷楽長としてかわいがられ、ライプツィヒに転任してからも恩義を感じ続けていたことは、皆様ご存じでしょう。1729年、その領主が若くして亡くなったとき、バッハはケーテンに赴いて葬送音楽を演奏しました。残念なことにその楽譜は失われてしまったのですが、テキストは残りましたので、復元の努力が始まりました。

19世紀旧全集の時点で、多くのテキストが《マタイ受難曲》の諸曲にぴたりとはまることは気づかれていました。シュミーダーの作品目録がBWV244aという番号を与えているのは、失われた葬送音楽を《マタイ受難曲》BWV244の副産物と位置づけているからです。20世紀半ばのスメントの研究により、第1部の枠をなす合唱曲が《選帝侯妃追悼カンタータ》BWV198から取られていることも定説化されました。

当時は《マタイ受難曲》の初演が1729年4月11日と考えられていましたので、3月24日の追悼礼拝と接近しています。そこで、どちらが先かという論争がけっこう深刻に行われました。その後リフキンの研究により《マタイ》の初演は1727年、1729年は再演と認められましたので、転用(パロディ)の方向は、《マタイ》→葬送音楽であることが疑い得なくなりました。

要するに葬送音楽は、パロディ(既成の曲の歌詞を付け替えて新作を生み出す)によって構成されているわけです。バッハのパロディは幅広くみられる現象ですが、作品の骨格が大方パロディ、とわかっている作品は、《ロ短調ミサ曲》、《クリスマス・オラトリオ》、小ミサ曲といったところで、いずれも後期の作品です。

説明が長くなってしまいました。でも興味深いところなので、もう少し続けます(続)。

今月の「古楽の楽しみ」2015年09月12日 07時05分43秒

未明の地震に、飛び起きてしまいました。水害とか噴火とか本当にいろいろあり、地球が怒りだしたのではないかと、不安になります。思うことはいろいろですが、被害の少なからんことを祈りつつ、標記のお知らせへ。

今月は、テレマンの《ターフェルムジーク》特集です。大学生のときに無理して買ったヴェンツィンガ-指揮のアルヒーフ盤(6枚組だったでしょうか)は、私をバロック音楽に引き寄せた誘因の1つであったと思っています。

放送は、ちょうど連休の、21~24日。全3集を順番に聴いていくのでは芸がないので、ジャンル別に再編成しました。21日(月)が管弦楽組曲、22日(火)が四重奏曲、23日(水)が協奏曲、24日(木)が独奏曲、三重奏曲。全部を聴くには時間が足りませんでした。

演奏は、1960年代のブリュッヘン、ヴェンツィンガ-を部分的に使い、あとはゲーベル、コープマン、アーノンクール、ムジカ・アンフィオン、フライブルク・バロック・オーケストラといったところで構成しました。気軽に聴いていただけると思います。

どんなジャンルでも楽々と手がけているように見えるテレマンですが、自伝では意外にも、コンチェルトはたくさん作曲したが苦手だ、と述べているのですね。技巧を目立たせることが必要になるので、という趣旨のようです。

今回やってみて、それは確かにそうだなと思いました。テレマンらしい情感豊かな旋律、流麗な旋律の魅力は、室内楽(とくに四重奏曲)、ソロ曲にあると思います。ずらりと並べると、ちょっと甘すぎかな、という気持ちも生まれてきますが・・。